百日咳について
- 2025.04.18
最近になって「百日咳」がニュースや新聞で騒がれています。当院では百日咳を疑う患者さんはまだみかけませんが、患者さんから質問されることも増えてきました。今回は、百日咳についてお話ししたいと思います。
【百日咳とは】
百日咳は百日咳菌という菌が起こす感染症で、発作的な咳が長引くのが特徴です。名前の通り百日近く(たいていは1-2か月)咳が続くことがあります。一方で、赤ちゃんがかかると重症化することがあり、ワクチン接種が最も有効な予防法とされています。日本では2ヶ月以降の乳児に五種混合ワクチンとして予防接種が行われています。
【百日咳の症状】
百日咳の潜伏期は1-3週間とやや長く、最初はふつうの風邪と同じように、鼻水や微熱、体のだるさといった症状が主で、咳もまだそんなにひどくありません(この時期をカタル期と言います) 。通常の風邪と変わらないため、この時期に百日咳を疑うことは困難なのですが、最も人にうつす時期なのでやっかいです。7-10日くらいたつと、咳が徐々に悪化し、発作的にせき込むようになってきます(この時期を痙咳期と言います)。夜間にせき込んで起きたり、吐いてしまうこともあります。また乳幼児では、咳発作のあと息を吸うときに“ヒュー”という笛のような音が出るのが特徴的です。その後、2-6週間で咳は徐々に改善していきます。健康な成人ではあまり合併症は見られませんが、乳児では咳のしずぎで肺が破ける(気胸)、頭の中に出血する(脳内出血)けいれんするなどの合併症があり、生死に関わる場合もあるので、特に注意が必要です。また65歳以上の高齢者や喘息、慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器の病気のある人も重症化するリスクがあります。妊婦さんは流産や早産のリスクが高くなり、出産前に感染すると赤ちゃんにうつす危険もあります。
【百日咳の診断】
マイコプラズマやクラミジアといった感染症でも同様にひどい咳を起こすことがあり、また咳喘息の患者さんでも発作的な咳がみられるため、鑑別が困難なことがあります。2週間以上咳が続き、次のような症状を伴う場合、百日咳を疑います。
・発作的な咳が続く
・息を吸うときにヒューっと音がする
・咳発作の後に嘔吐してしまう
・他に原因が考えられない
【確定診断】
鼻や喉の粘膜から粘液を採取して、百日咳菌が生えてこないか培養する方法が確定診断になりますが、咳が発作的になった時期では菌を培養できる確率が低いという欠点があります。一方、百日咳菌に感染すると、1-2週間で抗体が上昇してくるので、その抗体を血液で調べる方法もありますが、結果が出るまで4-7日くらいかかります。
【治療】
抗生剤(マクロライド系)による治療が有効です。抗生剤を服薬し始めてから5日後に、ほぼ菌は検出されなくなります。カタル期に治療が開始できれば症状は軽くすみますが、多くの患者さんは咳がひどくなってから受診するため、その時期では抗生剤で症状を軽くする効果は期待できません。しかし、感染力が3週間くらいまであるので、周囲への感染を減らすために発症から3週間までなら抗生剤による治療を行います。また65歳以上や喘息、慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患の人、妊婦さんは発症から6週間までであれば治療を行うこともあります。